皆様こんにちは。本日のリレー日記を担当させていただきます、法学部政治学科4年の伊保内啓佑です。先日の慶同戦を以て長かった体操人生に終止符を打ち、「卒業」という二文字が脳裏をよぎる時期になりました。
どうやらこの投稿も、私の最後のリレー日記となるようです。
1年生の頃から愛着をもって書かせていただいたこのリレー日記をもう二度と書けないということは、寂しさを感じることであると同時に、先輩方が脈々と受け継いでこられたこのバトンを、無事に次の世代に託すことができるということでもあり、時期尚早ではありますが、どこか安堵と達成感を感じております。書き始めた頃から「最後はどんなことを書こうか」と、永遠に考え続けてきましたが、正直伝えたい感謝が多すぎて全く纏まる気がしないため、今回は「体操部に頂いた3つの宝物」というテーマで書かせていただきます。
早速ですが、1つ目は「どれだけお金を出しても買えない思い出」です。体操部に頂いた思い出は沢山あります。つまらないのに永遠と続くコロナ禍のオンライントレーニングであったり、憧れだった全日本選手権の舞台での残酷な大怪我であったり、何試合も連続で落下し三木監督にイジられ続けたあん馬の演技であったり。数え始めたらキリがありませんが、中でも大切にしている思い出が2つあります。
まずは、最後の全日本インカレです。結果から申し上げると、敗北でした。目標としていた2部優勝も、1部昇格も叶いませんでした。達成してないというのに、皆で泣き、皆で抱き合いました。それだけ苦しかったんです。どれだけ頑張っても結果は出ず、期待してもらってるのに裏切り続け、挙げ句の果てに怪我人は後を絶たない。もう無理なんじゃないかと、僕らにこの目標は高すぎるのではないかと、何度も諦めかけました。それでも鼓舞し合って、責め合って、しのぎを削り合ってくれる仲間がいました。高校入学以来一度も団体戦をしてくれなかったのに、7年目にしてようやく団体戦に全てを賭けてくれた浦口優(商4)。表には出さないものの影でずっとメンバーを支えてくれていた西尾颯馬(薬4)。最後の最後まで心の灯火を消さず誰よりも声を出し続けてくれた小澤智也(文3)。14年間私と同じ場所で戦い続け、競技続行も危ぶまれるヘルニアを乗り越え、今や絶対に失敗しないチームのエースにまで登り詰めてくれた釜屋有輝(政3)。やりたい挑戦もグッと堪え、チームのために安定を貫いてくれた黒沢星海(理3)。度重なる大怪我で永遠に続くリハビリ生活を乗り越えて、しっかりとチームに貢献してくれた立花陽空(法3)。4年生のためだけにと健気に練習を追い込み続け、最高の演技で期待に応えてくれた小田切伊織(総2)。昨年から同じメンバーで団体得点を24点上げたという事実。2部準優勝、1部昇格までの点差0.03。目標は達成できませんでしたが、私はこの結果を誇りに思います。共に出場した選手たちに敬意を表すると共に、心からの感謝を申し上げます。
もう一つは、これといったエピソードではありませんが、先輩方と体操部について熱く語り合わせていただいた飲み会たちです。新型コロナウイルスの影響で卒業された先輩方との交流が断絶されてしまって以来、器械体操部と三田体操会は随分と距離ができてしまっていたように思います。なかなか交流の場を設けられなかった状況でしたが、久しぶりに体育館にお見えになった先輩に放った「飲み連れて行ってください!」この一言が全てを変えてくれたように思えます。やはり体操部という同じ根を持つ草同士、一度話し始めたら止まりません。あの頃の体操部はこうだった、今はこうです、こんな共通点やこんな改善点があると言った話は部を運営していく上で大変勉強になるものばかりでした。そうして話をしているとその先輩方は、同期やまた別の先輩を体育館に連れてきてくださり、その先輩がまた別の先輩を連れてきてくださり、気付けば土日の練習終わりの集合は巨大な円陣となっていました。少し前の体操部からは想像もつかなかったような、以前の活気のある体育館が帰ってきていました。先輩方との濃密な時間が私にとっては、競技の次に大事な場所となっていました。私たちのことを気に掛け、時に厳しい言葉で愛のムチを打ってくださった先輩方、本当にありがとうございました。これからも三田体操会員として、何卒よろしくお願いいたします。
宝物2つ目は、「仲間」です。体操部には、同じ志を持ち、同じ場所を目指す人間も頂きました。先程申し上げた器械メンバーはもちろんですが、私が頂いた一番の奇跡は、後世に語り継がれるであろうトランポリンチームの名将・上田乃維(環4)との出会いです。彼がいなければ今の私は確実にありません。逆に彼も、私がいなければ今の彼は無いでしょう(?)。というくらいに、本当に二人三脚で4年間走ってこられたと考えています。私は個人的に体操部の中で彼を最も信頼していますが、その理由の一つに論理的な性格が挙げられます。私が何かに行き詰まったり苦しんでいるとき、彼は余計な同情をしたり、不用意に慰めてはきません。私の問題点や改善点、懸念点をしっかりと明示してくれ、一緒になって親身に考えてくれます。私は彼のそういった姿勢から「確かに悲しいや苦しいという感情はあるかもしれないが、それを持っていたところで現状は何も解決しない」というこれから先の人生においても重要な考え方を学ぶことができました。
さらには、私の視野も広げてもらったと考えています。彼は時々、極論で論破してくる時があります。初見では理解できないが、話していると筋の通った論理を展開しているのです。だからこそ私は何かの決定を下す前、必ず彼に相談します。目的としては、どんな反対意見が考えられるかを教えてもらうためです。それまでは自分の意見にどう反対してみようかなど考えてもいませんでしたが、彼との壁打ちを通じて、この論理にはどこに穴があるのかを探る批判的思考力を養わせてもらったなと感じています。
また、私を諸先輩方と繋げてくれたのも上田乃維であります。彼もまた私と同様、飲み会という場所が大好きな人間で、好きすぎるあまり最近は毎日のように二人で飲みに行っているのはここだけの話。彼の人間関係構築力には目を見張るものがあり、私が知らない間に慶應トランポリンの初代の先輩方まで繋がっていました。我々は純粋に先輩方と交流させていただく楽しさに惹かれ、そういった点で共感し合えたことも部を運営していく上で本当に良かったなと思います。いつもありがとう。これからもよろしく。
最後の宝物は、「組織運営能力」です。私が3年当時、4年主将が不在だったため、2期連続で主将を務めさせていただきました。着任当初は、右も左も分からず、ただ自分が正しいと思う方向に勘で突き進んでいくような感覚でした。「自分の正義」と「他者の正義」の間に距離があることに気が付いていないことも多々ありました。例えば、部内の規則の引き締めであったり、練習メニューの追加・変更だったりに対する受け止め方などです。今考えれば、そこに差が生まれる原因が部に対する前提認識の違いと、単純なコミュニケーション不足の2つだとすぐに分かります。しかし当時の私は、それを高い障壁に感じ、加えて感情的に受け取ってしまってもいました。自分がいない方が、皆が幸せになるのではないかと思った夜もありました。やはり、部員の自由や権利を奪うような高い目標を掲げると、その分だけ多くの嫌われるリスクやそれに伴う心理的なコストがかかるということを学びました。
先程「正義」と申し上げた通り、どちらが合っててどちらが間違ってるというものではありません。全ての物事には一長一短ありますので、どちらにも正しさがある、というのが実際のところです。だからこそそれらに板挟みになり、自分は苦しんでいたのでしょう。メンタルが成長痛を起こしていました。
私はこれらの経験を通じて、リーダーとは、数ある正解の中から合理性と根拠に富んだ最適解を、強制力を持って実行に移していく存在だと結論付けました。前述のリスクやコストを厭うことなく、その集団にとっての最大幸福となる策を講じ続けることこそが、リーダーにしか果たせない最大の役割なのではないでしょうか。
こういった日常では得難い苦しみと成長を同時に経験させていただけたのは、私の失敗を見過ごさず根気強くご指導いただいた首藤先生・三木監督・塚田会長をはじめとする先輩方、私が倒れないように常にフォロー体制を整え続けてくれた同期たち、物怖じせずに意見を言ってくれ着いてきてくれた後輩たち、全ての皆さまのお陰です。自己中心的でわがままばかりの主将でしたが、こんな私を2年間支えていただき本当に本当にありがとうございました。
この他にも、沢山の宝物を頂きましたが、これ以上は皆様も読む気が失せてしまわれると思いますので、一旦この辺にしておきます。一部員がこんなにも長々と語ってしまう通り、慶應義塾体育会器械体操部は皆さまが思っているより数倍は素晴らしい場所です。時に嫌な面が見えたり、本当に自分の居場所なのか、と疑ってしまうこともあると思いますが、私がこれだけは確かだと信じていることは、苦しんだ分だけ自分の財産になるということです。器械体操部は自由に挑戦し、自由に失敗し、自由に苦しむことのできる最高の成長環境が整っています。そんな環境の中で、高校からの7年間を過ごすことができたこと、本当に光栄です。改めまして、これまで7年間支えてくださった全ての皆さまに厚く御礼申し上げます。
後輩の皆さん、あとはよろしくお願いします。