こんにちは。本日のリレー日記を担当させていただきます、理工学部物理情報工学科3年の黒沢星海です。
セッティング中から、冷房が入っているのか入っていないのかよく分からない嫌な暑さが続き、そのうち涼しくなるだろうという予想も虚しくセッティングが完了した。この暑さでは練習もままならないと思い、会場練習の直前にも関わらず近くのコンビニであらゆる氷を物色してみる。会場に戻る頃には涼しくなっているかも、という一縷の望みも、観客席に戻るやいなやすぐに断たれてしまった。いつぶりに食べたかも分からないアイスボックスを半分以上残した私は、足早にメインアリーナへと降りたのだった。
翌日、会場は心地よい温度の空気で満ちていた。前日までの憂いは晴れ、余計な心配をしなくていいのだ、と胸を撫で下ろす。メインアリーナよりも冷たい空気の流れるサブ会場に移り、ゆっくりと体を解しながら、心が凪いで行くのを感じた。
会場練習を終え、いよいよ競技の時間がやって来る。さすがに運動をすると、先程の凪は消え、涼しげだった体にも幾らか火照りが生じた。少しでも時間があると話しかけてくる彼は、いけるぞ、と温かい言葉をくれた。そのまま彼は、平行棒の審判席に視線を飛ばすと、因縁だな、と不敵な笑みを浮かべる。
そうだ、思い出した。昨年の全日本インカレは、この平行棒に泣かされた。思わぬミスにより、技が認定されず大幅に減点を食らってしまったのだ。そのとき彼は、必死にインクワイアリーをしてくれた。結局のところインクワイアリーは通ることがなかったが、それでも彼は、何度も何度も審判長に説得をしていたことを鮮明に覚えている。思いもよらず、体操に対する揺るぎない熱さを目の当たりにし、目頭が熱くなったのだった。
因縁だな、という言葉に込められた熱さは、会場練習で高揚した私の身体を更に昂らせた。試合が始まるアナウンスとともに、各大学の声援が飛び交い、会場が熱気に包まれる。他校の轟く応援に負けてしまいそうで弱気になりかけたが、とにかく冷静で居ようと、呼吸をして心の平穏に努める。自分の演技順になり、緑の旗とともに自らの手を高く挙げるが、なんだかしっくりこなかった。さすがに緊張していたのだろう。演技が始まり、倒立をしている頃には、いつもと変わらない感覚に戻った。倒立と次の倒立との間のメリハリを感じながら流れるように演技が進み、終末技の着地が決まったときには安堵の気持ちが溢れていた。今考えれば、なんとなく因縁を意識していたのかもしれない。丁寧な体操を評価してもらいたい一心で、およそ1年間この平行棒に取り組んできた。点数が表示されると彼は、リベンジ成功だな、と微笑みかけてくれた。彼はやっぱり熱い人だ。私はその微笑みを返し、次の種目に向かう準備をする。
私は試合中、終始クールに振る舞おうと努めていたが、それは出来ていたのだろうか。
長い文章となってしまいましたが、以上で本日のリレー日記とさせていただきます。ご精読ありがとうございました。