こんにちは。本日のリレー日記を担当させていただきます、理工学部1年の黒沢星海です。
体操ニッポンのオフィシャルスポンサーを務める三菱地所は、日本選手の勇ましい姿をモチーフにしたCMを度々流しています。皆さまも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。その中でも私は、kid fresinoというアーティストが挿入歌を担当した数年前のCMがとても印象に残っています。彼は歌の中で「影は唯一足から離れ一人きりの空中 頭に描いたイメージをなぞり光の中で反芻」という詞を綴っていました。極限の集中に達した演技前の感覚を見事に言い表したこの言葉に、当時の私は深く頷き、心奪われました。まさに、言い得て妙。ただ最近、ふと疑問に思いました。本当に「一人きりの空中」なのでしょうか。
コロナの影響により、近年の試合会場はそれ以前よりも静かになってしまいました。審判の合図、息遣いや器具が軋む音。練習場では聞こえないような些細な音まで耳に飛び込んできます。健闘を讃える乾いた拍手が飛び交うそんな会場では、ひとたび演技が始まると「一人きりの空中」にいるようでした。およそ1年前、私の高校最後の試合も例に漏れず応援が禁止されていました。最終種目の鉄棒、いつもより緊張している自分に不安を覚えながら、審判の旗が上がるまでの長い時間を待っていました。今までの練習を頭の中でなぞりながら深呼吸して鉄棒にぶら下がってみると、どこからともなく力強い応援が聞こえました。何度か緊張に負けてしまいそうになったものの、演技中でもはっきりと聞こえるその声援に奮い立たせられ、ミスなくベストを尽くすことができました。後ほど自分の演技を確認してみると、そんな声は上がっていませんでした。私が何を聞き、何を考えていたのか、今となっては分かりません。ただ、私にとってはとても意味のある経験になりました。
私がこの経験を通して感じたことは、体操がチームスポーツであるということです。送られた声援が朧げに描いた輪郭に対して、演技者が正確に線を書き色をつけていく。演技を行うのは一人ですが、それを作り上げるのは見守ってくれる方々を含めたチームであるはずです。だから私は、これからも声を張ってチームを盛り上げられる選手を目指します。そして声援を全身に感じて、表現できる選手を目指します。kid fresinoさんには申し訳ありませんが、ここで訂正させていただきたいと思います。私たちは誰も空中で一人きりにはさせない、と。
長く拙い文章となってしまいましたが、以上で本日のリレー日記とさせていただきます。ご精読ありがとうございました。